何事にもコツというものがある。あるのだが、言葉でコツを教えるというのは難しい。個人的には不可能に近いと考えている。おそらくコツは、自分で学ぶことによってしか学べない。コツについて聞かれ、教えようとしても、いざとなると適切な言葉がない▼例えば自転車に乗るコツ。自転車に乗れる誰かが、まだ乗れない誰かにコツを教えようとする。もっとペダルを踏めとか、まっすぐ前を見ろとか。それはおそらく、役には立たないはずだ。自ら自転車に跨り、何度もペダルを踏んでは倒れを繰り返すうちに、まさに忽然とコツをつかむ。こういうことかと体で理解する▼しかしながら、である。誰かが傍にいて自転車に乗るコツについて言葉をかけ続け、それが役に立たないので励ます言葉に切り替えて、という自分だけではない状況が必要なのだ。そうした状況があってこそ、誰かがまたひとり自転車に乗れるようになる。おそらく師弟関係とはそのように成立している。誰かに何かを教えるとは、そういうことだ▼個人的な話だが、新しい役割に挑戦する。まだ経験がないのでコツがわからない。コツをつかむまで転び続けるしかない。同時に誰かに教えを乞いながら、励まされながらでなければできないことも理解している。ゴルフもそうしておけば良かったのだ。(21・6・29)

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