赤道直下に浮かぶ小国シンガポール。日本と同様に資源はなく、さらに人口560万人と内需は極めて小規模だ。しかし1人当たりGDPは十数年前に日本に追い付き、今では世界8位にランク。25位まで下降した日本の1・6倍だ▼資源も内需もないシンガポールが発展を続ける原動力は危機感であろう。55年前にマレーシア連邦から独立、建国の父であるリー・クアンユーは第一公用語を中国語ではなく英語とし、世界に門戸を開いた。優秀な若者を欧米などで学ばせ、帰国後に国の中枢として登用。新興国にありがちな汚職や腐敗を許さない、徹底してクリーンな制度の運用に成功している▼リー氏の講演を聴いたことがある。大きな体躯から発せられる声は高齢を全く感じさせず大きく、聴衆を飲み込むような重圧だった。5年前に死去したとき、国をあげて1週間喪に服した。テレビはすべて建国からの軌跡をたどる映像を流し続けた。奇しくも建国50周年の節目の年だった▼独立して間もない頃の演説の映像を見た。土砂降りでずぶ濡れになりながら、時折演台を拳で叩き「皆さんが勤勉に学び働けば、必ず5年後には一家に一台テレビや洗濯機を買うことができる」と分かりやすい言葉で語りかけ、サンダル姿の聴衆は聞き入っている。国や組織はリーダーで変わる好例だ。 (20・12・7)

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