弊社のシンガポール支局は現在、中心地のサマセット駅から至近の場所にあるが、かつてモハメッド・サルタン・ロードという元倉庫街にあった。数十年前にできた倉庫はそのままに、内外装を改装したショップハウスと呼ばれる、今で言う「映える」レトロな雰囲気の建物に構えていた▼オフィス以外に、レストランやバーも多く軒を並べるお洒落な通り。一方、通りの向かいにはホーカーセンターと呼ばれるオープンエアの小さい食堂の集合体があり、駐在員時代にいつも注文したのが汁なし麺「ミーポッ」。店主から「おっ、ミポン人が来た」と揶揄われていたのを思い出す▼シンガポールは店の入れ替えが激しく、半年ほどのうちに、どんどん違う店に変わっていく。商魂たくましく、うまくいかないとみると違う場所に移るのだろう。しかし、向かいのホーカーセンターだけは庶民に必要とされ、ずっと変わらなかった▼いま東京で主要化学企業の社長インタビューが続いているが、共通するテーマの1つが事業の入れ替えである。ある企業は将来の収益性などを想定し事業を分離すると言い、ある企業は公共性の高さなどからやれるだけやると言う▼シンガポールの個人商店と化学企業の事業とは、社会への影響がケタ違いに異なる。未来に向け大きな決断を迫られている。(21・12・27)

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