イギリスは今年、エリザベス女王の「プラチナ・ジュビリー」を祝う式典で盛り上がっている。君主の在位70周年を記念したものだ。達成するには若くして即位したうえで、長寿でなければならない。世界史上4人しかいないらしい▼エリザベス女王以前では、タイのプミポン前国王が、この偉業を成し遂げている。徳のある名君として国民から尊敬を集めていたとされる人物である。長男のワチラロンコン国王がすでに即位し、街にはその肖像があふれているが、時折、前国王の姿もみかけることができる▼いくつかの日系企業でもプミポン前国王の肖像画を掲げていた。その理由を聞くと、必ずしも敬愛の念ばかりではないようだ。まず、新国王に切り替えたら、定位置を失った前国王はどこへ行けばいいのか。王室への侮辱は不敬罪として罰せられる国でもある。捨てるなどはもってのほか、しまい込むのも気が引ける。新国王は、父ほど国民から慕われていないとも伝えられていて、交換すること自体、よく思わない人もいるかもしれない。迷っているうちにも時は過ぎる▼前国王の肖像画の取り扱いは、すべてタイ人スタッフに任せ、日本人スタッフは何もいわないでいるのが落ち着きどころのようだ。どの文化にも、異境の者が踏み込まぬほうがいい領域がある。(22・6・23)

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