遅ればせながら、約22年ぶりに映画公開された寅さんの最新作を観に行った。中学生以下は鑑賞料金100円との粋な計らいに便乗し半ば強制的に息子を誘ったが、やはり周りはほとんど年配者。だが心配とは裏腹に、寅さんとタコ社長の掛け合いのシーンなど笑い声が聞こえホッとする▼甥の満男を中心に現在の話が進行しながら、回想シーンで流れるデジタル修復された昔の映像。名場面・名台詞が続くから寅さんファンにはたまらない。懐かしさと一緒に、今の時代に欠けた何か温かいものを感じさせる▼ところで、寅さんの実家の裏にある印刷会社を経営するタコ社長は、会社を維持するため必死に資金繰りに走り回る。中小企業の大変さを察する場面だ。その必死さが掛け合いをさらに盛り上げているといえば、少し不謹慎か▼ある調査によれば、昨年の企業倒産件数はリーマンショック以来、11年ぶりに増加したという。とくに中小企業の人手不足による倒産が顕著だ。黒字経営なのに後継者不足で廃業せざるを得ない中小企業も多く、その深刻さは計り知れない▼人手不足とはいえ、当たり前だが廃業が増えればその分の雇用も失われる。このところ発表される経済動向に関する指標は元気がない。「景気はどうだい?」。寅さんの問い掛けに明るく返せる日が待ち遠しい。(20・1・23)

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