批判する者を片っ端からとっ捕まえて、刑務所にぶち込んでしまう権力者もいれば、世論が怖くてちょっとした法改正さえできない権力者もいる。拾った財布を交番に届ける人もいれば、農場に押し入って果物や野菜を盗んでしまう人もいる▼同じ人間でも、いろんな奴がいる。同じ格好をしていて、遺伝子もほぼ同じなはずだ。脳味噌の構造も同じはずだし、原子レベルで見れば同じように炭素と水素と酸素と窒素が主成分のはずだ。同じ川でも急峻な上流と、ゆったりとした下流ではみせる表情が違うのと同じようなことなのだろうか▼毎日メシを食い、新しい素材を取り入れるから、以前と今では体は入れ替わっている。なのになぜ私は、ずっと私のままなのだろう。体は素材の集まりに過ぎないのに、なぜ私には自我や感情や思想があるのだろう。そしてわれわれのなかにはなぜ、善意や同情や謙遜と同じだけ、悪意や非情や傲慢が組み込まれているのだろう▼そうした問いに、われわれはうまく答えられない。本当は、自分でもなぜ自分がそんな選択をし、行動するのか、説明できない。非情のボタンを押してしまった権力者も、きっとそうに違いない。なんだか中島みゆきさんの楽曲みたいになってしまったが、素材が一緒なのでそういうときもある、とお許しを。(22・7・26)

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