精留塔を書くようになってもうすぐ十年。水曜欄にかれこれ500本ほど書いてきた。記事データベースでどんなことを綴ってきたか振り返ってみると、ずらり並んだタイトルを見るだけでも楽しい。初回は「輪行日和」というタイトル。自転車バッグを担いで電車に乗り、昔住んでいた街に降り、自転車で懐かしい風景の中をめぐったことを書いた▼最初の頃は筆運びに妙に力が入っている。しかしその分、記憶には強く残っている。整理部所属の内勤記者だったので、業界のことにはあまりふれていないが、最初に業界のことを書いたのは、「化学のキーワード“協奏”」という文章だった▼三菱ケミカルや野依良治氏のことを書いたが、その中に野依さんの「産業界と学界、国際社会が共同することで初めて新しい価値が創造できる。『競争』の時代から『協奏』の時代に入っていく。難しいのは指揮者をどう養成するか」という言葉を引いた▼それから十年、国と国、富める者と貧しい者の分断が深刻化するこの世界で、「協奏」は人類が共有すべきキーワードとしてより大切になった▼540字の小ワールド、精留塔。小職の執筆は本日が最後となりました。最後は拙歌で締めることと致します。長い間ありがとうございました。〈柄にもなく文章の範示さんと気負いし日々にさらばサヨナラ〉(22・3・30)

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