先日の住民投票の結果、大阪市は「都」となることなく「市」が存続することになった。一方、東京の方は市から都になり、もうすぐ80年。東京市が生まれたのは1889年(明治22年)、今から130年ほど前。それから1943年(昭和18年)まで半世紀以上続いた▼東京市は最初15区だった。麹町、神田、日本橋、京橋、芝、麻布、赤坂、四谷、牛込、小石川、本郷、下谷、浅草、本所、深川。今でも馴染みの地名であるが、現在の23区の西部や北部は入っていない。麹町と神田が合併して千代田区、日本橋と京橋で中央区など、それぞれ現在の何区になったかは調べていただくとして、15区時代の各区の風俗を記した面白い本がある▼大正7年刊『東都新繁昌記』である。目次を見るとめくるめく思いがする。お役所の麹町、書生の神田、和製の日本橋、高襟の京橋、南東京の芝、虫声の麻布、華族の赤坂、腰弁の四谷、高台の牛込、学者の小石川、角帽の本郷、花の下谷、女の浅草、職工の本所、水郷の深川。当時の各区を象徴的に表しているタイトルなのだろう▼だとすれば、想像力たくましく街歩きをすれば、その残り香にすこしは触れることができるかもしれない。オフィスとビジネスに強く統べられた画一的な感の強い現在の東京中央部。過ぎし日の多様性が恋しい。 (20・12・16)

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