春から夏に向かう数カ月間は、活力が増し、期待感に溢れる時期だ。今年はそれがないまま入梅となった。コロナ対応に追われたことや、これまでとは違う生活パターンだったためだろう。だが、それだけではない。スポーツの試合を見るという楽しみが欠けていた影響も大きい▼春の到来は、日本のプロスポーツの開幕とともに実感する。まだ寒い時期に開幕するJリーグは、週末ごとに観客の服装が変わっていく。そして、テレビの前でゴルフのマスターズ、テニスの全仏オープンや全英オープンといったメジャー大会に熱狂する体験とともに、月日は夏へと進んでゆく。そうした季節感が体に染み付いている▼その代わり、今年は過去の名場面集のようなテレビ番組を多く見た。スーパーショットを決め、歓喜する選手や熱狂する観客の姿が何度も映し出される。人々は抱き合ったり、ハイタッチを交わしたりしている。誰もウイルスのことは気に掛けていない。もちろんマスクもしていない。思わず、大丈夫なのだろうかと考える自分がいる。過去には無かったはずの感覚が、短期間で染み付いている▼マスクを付けるという習慣は、今後はどうなるのだろう。コロナ完全撲滅まで続くのか、それとももはや着用しないことがあり得ない、下着のような存在になるのだろうか。(20・6・16)

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