ノーベル化学賞受賞者で、米パデュー大学特別教授の根岸英一さんが先週亡くなった。根岸先生は弊紙とも縁が深かった。本紙紙面のみならず、発行した冊子などにもたびたび登場した。2014年には弊社主催の「化学の日」記念ケミカルフォーラムで特別講演された。自分にとっては初めて生でみるノーベル賞受賞者だった▼社内のデータベースを検索して、先生が残した珠玉の言葉をさがし集めた。それらを読んでいると、若い人々を鼓舞する言葉それ自体の創造性に惹きつけられる▼「研究の世界は成功よりも失敗の方がはるかに多く、私の経験値では9割は失敗。研究で最も大事なのは、多くの失敗と正しく向き合うこと。困難な局面を乗り越えるには、何十、何百と発想や計画の代案を持っておき、何度も挑戦することが重要」という信念の基本には恩師ブラウン博士の教えがある▼若者へのメッセージを求められると、「『ABC』が大事。Aは『アンビシャス(大志)』、Bは『ベーシック(基本)』『ブロード(広く)』。Cは『クリエイティブ(創造的)』と『キャタリティック(触媒)』と楽しそうに答えた▼専門のクロスカップリング反応研究に関しては、「近年、中華圏出身者の活躍が目立つ」とし、日本の学生に奮起を促していたのが印象的だった。(21・6・16)

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

精留塔の最新記事もっと見る