知り合いが出演している江戸時代を舞台にした芝居を見にいった。終盤で主人公が「外郎(ういろう)売」の長台詞を披露する場面があった。早口言葉にもある「~武具馬具ぶくばぐ三ぶぐばく~」という口上で、市川團十郎の歌舞伎十八番の一つとして有名▼二代目市川團十郎は咳や痰に苦しみ、台詞がうまく言えずに困っていた時期があった。その病を治したのが万能薬といわれた外郎。よほど効き目があったのか外郎を世に広めたいと「外郎売」を自作自演したのが初まり。中国の薬がルーツとされ、今も小田原で売られている▼米バイオジェンとエーザイが共同開発した「アデュカヌマブ」はアルツハイマー病に苦しんでいる患者さん、家族にとって外郎のような存在になるだろうか。アルツハイマー病の治療薬としては20年ぶりの新薬。日本でも承認申請されている▼原因物質である「アミロイドベータ(Aβ)」の脳内蓄積を減少させる作用がある。Aβを標的とする治療薬の開発は失敗の連続だった。アデュカヌマブも開発が一度中止になるなど紆余曲折を経ている▼昔も今も病から命を救う薬の大切さは変わらない。難病に対する治療薬のニーズは高まる一方、開発のハードルはいぜん高い。人工知能(AI)やデジタル技術を活用して創薬のスピードアップを期待したいところだ。(21・7・2)

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