人は元来、変わりたくない生き物らしい。変化は手間暇がかかるうえ、失敗に終わる可能性もある。だから現状維持バイアスに飲み込まれる。しかし、もし破壊的な危機がゆっくりと迫ってきているのに、変わらなければ破滅を迎える▼旧三菱ケミカルホールディングスの社長・会長を務めた小林喜光氏(現東京電力ホールディングス会長)は危機感のない日本をよく「茹でガエル」に例えた。水に入ったカエルは、ゆっくりと茹でていくと温度上昇に気付かず死んでしまうという寓話▼世界で最も食されているリンゴ「ふじ」。開発したのは青森県の1人の農家だ。当時、バナナなど農産物の輸入自由化が噂されたが、他のリンゴ農家たちは変化を恐れ現状維持に執着した。1人の農家が糖度の高い「ふじ」の開発に挑まなければ、リンゴの名産地は消えてなくなっていたかもしれない▼では世界一のブランドを確立した「ふじ」で未来永劫安泰かといえば、答えは否であろう。人の営みは盛者必衰の理、必ず危機は訪れる。ではどうすればいいのか▼「ふじ」を超えるエベレスト(?)など誰も追い付くことができない品種を開発したり、リンゴ栽培のノウハウを生かしたビジネスに挑戦したり、世の中の変化を見据え、失敗を恐れず絶えず試行錯誤を繰り返すしかない。(22・8・22)

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