全国紙の電子版を購読すると居住地以外の地方版を読めるのが便利だ。それぞれの地方版を読み比べると、新型コロナ感染状況の差がそのまま紙面の作り方の差になって表れている▼福島第一原発のトリチウムなどを含む処理水の海洋放出がこのほど決まったが、福島地方版はこの問題に厚く紙面を割いた。当然といえば当然。しかし、この問題一色の紙面を見て、いかに他人事でこの問題を見ていたかを思い知らされた▼そもそも政府は6年前、福島県漁連に対し「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と約束していた。今回の一連の流れをみると、県漁連はいささかの理解も示していない。それどころか、決定の一週間前には菅首相との会談で、地上保管の継続など「あらゆる方策の検討」を求めている▼首相は、風評被害で復興への希望が失われることがあってはならず、情報発信など政府一体で全力を尽くすと述べたが、関係者たちの納得を得たとは言い難い。海洋放出が実際に始まるまでには2年ある。この間に関係者の理解を得る議論を深め、そのプロセスを国民や世界に発信していくべきだろう。消費者の意識から「不安」を拭うにはそれが必要だ。〈福島産の果実食えぬという人ら福島産の電気食いしを〉当地の歌人波汐國芳さんの重い重い声が耳を離れない。(21・4・21)

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