知の巨人とも言われた立花隆さんが亡くなって5カ月ほどがたった。宇宙飛行や脳死、臨死体験に関する著作など何冊かを読み直したが、年取ってから読む立花隆は、こちらの衰えかけた脳細胞を刺戟してやまないかのようだ▼母校である東大での講義録も興味深い。「I/O比」(インプットとアウトプットの比)について、たいていの知的世界ではI/O比は少なくとも100以上ないといけないと語っている。著作であれば100冊以上本を読んだ人でなければ1冊の本を書ける域には達しないと▼しかし、これは平凡な著作レベルの話。まあまあの水準を出そうと思えばI/O比1000が必要だという。つまり1000冊以上は読みなさいと。これは凡人にはなしえないレベルだ。これをいとも簡単に言ってのけるのが良くも悪くも立花隆という人だった▼1000というのは、いろんな意味でいい区切りになり、どんな領域でも桁が3つ上がると新しい世界に入るとも語っている。物質の微細な世界も、ミリ、マイクロ、ナノでそれぞれ新しい世界に入る。比例して世界が小さく細かくなるだけではない。ナノテクノロジーが語り尽くせぬ魅力に満ちていることはご承知の通りである▼I/O比1000。人材も資金も時間も労力もけちっていてはいけないということか。(21・9・29)

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