梅雨入りしたものの、照りつける日差しはもう夏本番を迎えつつある。いまだコロナ禍にあるとはいえ、東京では居酒屋などの飲食店は活況を呈し、「全席予約ずみ」といった看板を店先で見かけることも少なくない。旬の食材であるキュウリや新生姜、いさきや鮎、変わり種ではほや貝などに出会う機会も増えてきた▼人生半世紀に至るが、まだまだ知らない食材が日本にはあるんだと思い知らされる。先日、九州料理店で会食した際、登場したのが「エツ」という魚。日本では有明海の湾奥部にのみ生息する幻の魚で、精細なため通常は地元限定で食されているとのこと。小骨は多いが、なんとも味わい深い魚味が口に広がる。また店先にはイソギンチャクも置いてあり、食すことができるのには驚いた▼有明海で手摘みされた生のりにも感動した。人懐っこい福岡出身の大将が「食べると有明海が見えるよ」と笑いながら運んでくる。終いには大将、「なかなか入荷しない幻の酒もあるよ」と一緒に座って飲み出す。こうなると、普段飲めない酒も飲んでしまい、貴重な食材の味も訳がわからなくなる。お連れいただいたKさん、ありがとうございます▼半世紀でこれだから、星の数ほどありそうな食材を食すにはあと何年必要なのか。とても残りの人生ですべて食せるはずはない。(22・6・27)

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