あるところに鹿狩りを得意とする数人の狩人がいた。みな飢えていたため、協力して狩りをすることにした。各人が忠実に持ち場を守り、1頭の鹿を捕らえる作戦だ。ある狩人の前に1羽のウサギが現れる。彼は見過ごそうとするが、仲間の誰かが約束を破り手を出すのではないか、そうなると約束を守った自分が飢えて死んでしまうのでは、と仲間を信用できなくなり、ウサギを射止める強い誘惑に駆られる▼これはルソーの「人間不平等起源論」に登場する寓話で、人間の弱さ、相互協力の難しさを表している。同論は「人間は相互協力のような理性を獲得すると、所有権などの制度を発明し、家族、農業などによって不平等が発展する」としている▼しかしルソーはこうも述べている。「不平等は人間にとって自然な結果である。しかし法律によって人為的に許容される不平等が自然な不平等よりも大きいならば容認できない。なぜならそれは不自然な不平等であり、自然法(倫理)に反するからである」▼自国第一主義の国は、ウサギを何のためらいもなく射止めるだろう。自然法に反し、領土や領海を広げようとする国もウサギを射止める側だ。人類は今、カーボンニュートラルという鹿を協力して捕らえなければ、死滅するかもしれない存亡の危機に直面している。(21・12・20)

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