ヘンリー・フォードが1909年に生産を開始し、その4年後からベルトコンベアによる大量生産方式を導入した自動車がT型フォード。一時、米国で走る自動車の2台に1台以上がT型というほど売れに売れた。自動車産業を確立し、モータリゼーションを引き起こし、大量生産・大量消費という新時代をもたらした▼ベルトコンベア方式を始めとする効率化の効果はてきめんで、1台当たりの平均労働時間はそれまでの12時間から1時間30分に短縮された。大規模工場での単一グレード生産によるスケールメリット、部品・原材料の内製化など、勝ちパターンてんこ盛りの経営を推進し、庶民でも買える販売価格を実現した▼資本主義の申し子とも呼ぶべきフォードの偉業はあまりにも有名であり、世の中を変えたという意味でもその功績は語り継がれている。しかしながら、それは企業経営者や株主、学者やアナリスト、はたまた外部の傍観者の視点であり、フォード社で働きT型を生産していた社員の視点ではない。当時、フォード社では月に4割のペースで従業員が会社を辞めていたという▼米国型の資本主義、企業経営とはそういうことだ。主役はあくまで権利者や権力者なのだ。社員に希望と満足をもたらす経営こそ、これからの時代には合致している気がしてならない。(22・3・22)

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