今年も残り3週間足らず。12月は新春インタビューなどが立て込み、1年で最も忙しない月である。自分自身に無意識のうちに「急げ」と命令しているようで、妙に落ち着かない日々が続く。人は「急がなければ」と思うほど焦り、本来の力を発揮できなくなる可能性がある。なので「急がば回れ」と言い聞かそうとするのだが、これだと回り道にやたら時間がかかりそうで、しっくりこない▼芥川賞作家で名コピーライターだった開高健氏は、これを「悠々として急げ」と意訳している。これだと緊張感を保ちつつも、一旦気持ちを落ち着かせる余裕があり、しっくりくる。もともとラテン語の「フェスティナ・レンテ」が原語らしい。原語を紐解くと、遅すぎると良い結果に辿り着けないという意味も込められているらしい。言葉の力は絶大だ▼会食が続く今月、都内のあるバーへ連れて行っていただいた。地下にある扉をくぐると、洒脱な雰囲気が漂う。決して豪華ではないが、妙に落ち着き、飲めない酒が進む。壁中に写真や額縁が飾られ、聞くと開高氏が愛したバーだという▼その額縁の1つに目がとまった。彼が愛した言葉の1つ「漂えど沈まず」。「肩の力を抜きつつ全力で生きろ」と励まされているようで、しっくりきた。紹介いただいたKさん、ありがとうございます。(21・12・13)

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